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千葉地方裁判所 平成5年(行ウ)9号 判決 1995年1月25日

原告

茂田郁次郎(X1)

茂田淳子(X2)

茂田晃(X3)

被告

千葉県知事(Y1) 沼田武

君津市中野土地区画整理組合(Y2)

右代表者清算人

島田和助

右両名訴訟代理人弁護士

滝口稔

右千葉県知事指定代理人

黒澤道秀

石橋賢二

伏見益昭

白井清

中西雅行

鳥飼良雄

理由

第一  本案前の主張について

一  請求の趣旨1(一)本件設立認可処分の無効確認の訴えの適否について

原告らは、本件整理事業は、周辺地域の環境保全にも配慮した適正な事業計画に基づき行われるべきであるから、本件施行地区外の原告らにも、本件設立認可処分の無効確認を求める原告適格がある旨主張する。

法によれば、土地区画整理組合の設立が認可され、同組合が成立すると、設立に関する費用は組合の負担となり(法二四条)、組合業務は組合役員たる理事によって執行され(法二八条)、事業計画の変更を始め、換地計画、仮換地の指定等事業の施行に係る重要事項については全て総会決議を経なければならないところ(法三一条)、役員等の選挙、被選挙権や解任請求権(法二七条三項、七項、三七条一項、四項)、総会等の招集請求権(法三二条三項、三五条三項)、組合の事業又は会計の状況の検査請求権(法一二五条二項)、総会等における議決等の取消請求権(同条八項)のほか種々の権利を有する一方で、組合の事業経費を分担する義務をも負う(法四〇条)のは当該組合の組合員である。

そうすると、当該組合の設立に伴い、法二五条により法律上当然に組合員たる地位を取得させられることとなる事業施行地区内の宅地の所有権者又は借地権者が、当該組合の設立認可処分の無効を争うにつき法律上の利益(原告適格)を有することは明らかである。一方、これに対して、事業施行地区内の宅地の所有権者でも借地権者でもなく単に、右地区に隣接した宅地の所有権者であるにすぎない者は、組合の設立認可処分によって、自己の法律上の地位に何ら影響を受けないことはもちろん、自己の権利利益が害されることもないのであるから、設立認可処分の無効を争う法律上の利益を有しないものというべきである。

原告らは、本件施行地区に隣接するもその地区外の宅地の所有権者にすぎず、右施行地区内の宅地の所有権者、借地権者のいずれでもない以上、本件設立認可処分の無効確認を求める訴えにつき原告適格を有する者ではなく、右訴えは不適法として却下を免れないものである。

二  請求の趣旨1(二)本件換地計画の認可処分の無効確認の訴えの適否について

原告らは、本件換地計画の認可処分は、本件各換地処分を基礎づける換地計画を認可するものであるから、右各換地処分の効力を決する前提として、抗告訴訟の対象となりうると主張する。

しかしながら、換地計画(法七八条)とは、事業計画の具体化として、従前地の所有権その他の権利につき、区画整理後にどのようなものとして処理するかその権利変動の性質を定めるものであるところ、都道府県知事によるこの換地計画の認可処分(法八六条)は、換地計画について法令違反等がないかを確認したうえで、その内容すなわち右に述べた各権利変動の性質を確定するにすぎないものである。したがって、右認可処分により直ちに個別具体的な権利変動が生じるものではなく、認可された換地計画に基づき仮換地指定処分、換地処分があって初めて個別具体的権利変動が生じるのであって、関係権利者はその段階で抗告訴訟を提起することができ、かつそれで足りるものである以上、換地計画の認可処分は紛争の成熟性に欠け、無効確認訴訟の対象となる行政処分には該らないと解するのが相当である。

よって、原告らの本件換地計画の認可処分の無効確認を求める訴えは、その対象を欠く不適法なものとしてやはり却下を免れないものである。

三  請求の趣旨2(一)本件各換地処分の無効確認の訴えの適否について

右訴えは、第三者に対する換地処分の無効確認を求めるものであるが、右無効確認を求める原告適格があるというためには、第三者に対する換地処分によって自己の権利利益の侵害を受けるという特段の事情が存在しなければならないところ、原告らは、本件各換地処分に際して本件用途廃止処分がなされた結果、目録五、六の土地それぞれが袋地になったため、本件各換地処分によって、従前原告らが本件既設道路を通行することにより有していた個別具体的権利利益が侵害されたと主張する。

ところで、〔証拠略〕によれば、原告らは、本件設立認可処分後の昭和五三年七月四日、木更津簡易裁判所に、被告組合外七名を相手方として、目録六の土地と本件整理事業によって新設される区画道路との間に存在する土地の一部に道路を設けて、原告らに右道路の通行権を認めるよう求める旨の調停の申立をしたこと、これを受けて、被告組合では、目録五、六の土地それぞれが袋地とならないように、本件既設道路に代替する道路の設置を検討したこと、その結果、被告組合は本件換地計画を定めるに際して、君津市と協議のうえ、目録三、四の土地それぞれについては、用途廃止となる本件既設道路の代替道路とすることを予定して君津市に換地し、本件換地計画の認可後の平成五年二月には、君津市の了解を得て、目録三、四の土地それぞれに本件代替道路を設置したこと、右のとおり本件代替道路が設置されたことにより、原告ら所有の目録五、六の土地それぞれは、事実上袋地ではなくなったこと、その後の平成六年三月三一日、本件代替道路につき君津都市計画事務所長により、建基法四二条一項五号の道路としてその位置が指定され、少なくとも二メートル以上の幅をもって目録六の土地が右代替道路に接していること、したがって、目録五、六の土地それぞれは、現在では建基法四三条一項の接道要件を満たすに至っていること、が認められる。以上の事実からすれば、仮に原告らの主張するとおり、原告らが、本件既設道路の利用につき社会生活上不可欠な個別具体的権利利益を有していたとしても、本件代替道路が設置されたことによって、本件用途廃止処分にもかかわらず、原告らの権利利益が侵害された事実はないというべきであるから、原告らには、本件各換地処分の無効確認を求める原告適格はないものといわざるをえない。

よって、原告らの右各訴えも不適法として却下を免れない。

四  請求の趣旨2(二)本件保留地売買の無効確認の訴えの適否について

本件保留地売買は、買受人訴外五味と被告組合との間の私法上の売買契約であるから、右訴えは、第三者間の契約の無効確認を求めるものであるが、右無効確認を求める法律上の利益があるというためには、第三者間の契約の効力により自己の権利や法的地位が左右される特段の事情がなければならないところ、本件保留地売買の効力の有無によって原告らの権利や法的地位が左右されるような特段の事情は何ら認められず、原告らには右契約の無効を確認する法律上の利益はない。

しかも、右訴えは過去の法律関係の無効確認を求めるものでもあるから、仮に、右売買契約の有効、無効が原告らの権利関係に何らかの影響を与えるとしても、原告らとしては、現在の法律関係に関する訴えによって目的を達成しうるはずであるから、右訴えはいずれにしろ確認の利益を欠き不適法である。

五  請求の趣旨2(三)被告組合に対し本件区画道路の設置を求める訴えの適否について

右訴えは、行政庁に対して一定の作為を求める、いわゆる義務づけ訴訟であると解されるが、このような訴えは、(1)行政庁が当該処分をなすべきこと又はなすべからざることについて法律上覊束されており、行政庁に自由裁量の余地が全く残されていないため、行政庁に第一次的な判断権を留保することが必ずしも重要ではないと認められること、(2)損害が差し迫っていて、事前に救済しなければ回復し難い損害が生ずること、(3)他に適切な救済方法がないこと、の各要件を充たす場合に限り許されるものと解すべきところ、本件訴えが右各要件を充たさないものであることは明らかであり、やはり、本件訴えも不適法なものとして却下を免れない。

第二  結論

以上によれば、本件各訴えは全て訴訟要件を欠き不適法であるから、その余の点につき判断をするまでもなくいずれもこれを却下し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清水信雄 裁判官 大久保正道 髙宮園美)

物件目録

一 所在 君津市中野一丁目

地番 一一番六

地目 宅地

地籍 二四五・一九平方メートル

二 所在 君津市中野一丁目

地番 一一番三

地目 畑

地籍 六一平方メートル

三 所在 君津市中野一丁目

地番 一一番四

地目 公衆用道路

地籍 二五平方メートル

四 所在 君津市中野一丁目

地番 一一番五

地目 公衆用道路

地籍 一五平方メートル

五 所在 君津市中野一丁目

地番 四四二番七

地目 宅地

地籍 二八〇・九七平方メートル

六 所在 君津市中野一丁目

地番 四四二番五

地目 田

地籍 一三平方メートル

〔編注、次の別図一、二は、判決文の図面一と詳細図を簡略化したものです。〕

別図一

<省略>

別図二

<省略>

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